高校受験だと偏差値が高くなるという嘘

中学受験の嘘

「中学受験だと偏差値55だと高校受験は偏差値60になるので難易度が高くなる」と言った言説を中学受験業界で聞いたことはないでしょうか。「なので今受験しないと高校からでは入りにくくなりますよ」といったお話しを。

これは中学受験塾のセールストークです。

この記事ではその根拠を説明していきます。

中学受験の偏差値

まず中学受験の偏差値について見ていきましょう。

過熱気味の中学受験ですが、中学受験をする率は首都圏では20%ほど、東京都だけでも30%ほどです。

中学受験をする層に成績上位者が相対的に多いのは事実ですが、成績上位の3割が全員中学受験をして、それに失敗した人+中学受験をしなかった下位7割が高校受験をするというのは大嘘です。

あえて高校受験をしない成績上位層は東京都でも一定層います。公立高校から難関大学に入っている方のお子さんに多く見られます。

また、中学受験に成績下位層の人が参入しているのも事実です。

ただし、平均を見れば中学受験をする層の方が高いのは事実です。よって中学受験をする人たちだけで試験を行えば全国の小学生を母集団としたときの偏差値よりかなり低めに出ます。

それを踏まえた上で首都圏の中学受験には主に四つの指標があります。

①サピックス偏差値(サピックスオープン・およそ7,000人)

②日能研偏差値(合格判定テスト・11,000人)

③四谷大塚偏差値(合不合判定テスト・15,000人)

④首都圏模試偏差値(統一合判テスト・13,000人)

※人数は2021年度に行われた試験の累計です。

①はサピックスの塾生が、②は日能研の塾生が②は四谷大塚と早稲田アカデミーの塾生が多く受けます。④の首都圏模試はそれ以外の塾生の人が多く受けます。

もちろんサピックスの塾生が四谷大塚の模試を受けることもありますし、日能研の塾生が首都圏模試を受けることもあります。

偏差値は概ね首都圏模試>四谷大塚≧日能研>サピックスの順で高く出ます。(④>③≧②>①)

偏差値の差は偏差値帯によって違いますが、いくつか例を挙げると

栄東1次(女子偏差値)④72③60②59①50

桜蔭④77③67②67①62

開成④78③72③71④67

といったところです。

中学受験は「サピックス偏差値に+5をしたものがY偏差値」といったことは、大まかには間違ってはいないのですが、偏差値帯によってその差は違うということは頭に入れておいた方が良いです。

高校受験の偏差値

高校受験の偏差値は以下の2つがメインです。

①サピックス偏差値

②駿台偏差値

③Wもぎ偏差値

④Vもぎ偏差値

母集団については試験回数が大きく違うので人数は出せませんでした。人数規模でいうと④>③>②>①です。

そして偏差値は④≧③>②>①の順で高く出ます。こちらも例を出します。

日比谷高校(女子)④68③67②60①52(男子)④70③68②60①58

青稜高校④64③63②53①41

となっております。

高校受験は中高一貫校ではない公立中学に通っている方はほぼ全員受験しますので、母集団は多いです。

中学受験と高校受験の偏差値

過熱する中学受験ですが、首都圏全体で見ても私立中学・国立中学を受験する割合は全体の17.3%(首都圏模試センター調べ)、公立中高一貫校の受検者を含めた全体に対する割合は21.1%です。(日能研調べ)

中学受験が盛んな東京都だけみても、私立・国立中の受験者、公立中高一貫校の受検者数は総数でも30.8%に過ぎません。(日能研調べ)

そして受験をした人が全員希望通りに私立・国立・公立中高一貫校に進学する訳ではありません。

受験者数が30.8%と多い東京都でも私立中と公立中高一貫校の進学者数は19.8%です。(東京都教育委員会の令和2年度公立学校統計調査報告書より)

つまり3割の人が中学受験をして2割の人が私立中・国立中、公立中高一貫校に進学し、8割程度の人は一般の公立中学に進学します。

そして一般の公立中学に進学した人のほぼ全員が高校受験をします。以上を踏まえると中学受験と高校受験の偏差値を比べる場合、以下の点に注意する必要があります。

・中学受験は相対的に学力が優秀な層が母集団なので偏差値は低めに出やすい

・高校受験は幅広い学力の層が母集団のため偏差値は中学受験より高めに出やすい

中学受験塾のセールストーク

冒頭に「高校受験だと偏差値が上がるから中学受験の方がお得」というのは中学受験塾のセールストークというお話しをしました。

なぜそう言えるかというとその比べる偏差値が中学受験は低めに出る偏差値(サピックス偏差値、日能研偏差値、四谷大塚偏差値)を基準にするのに対し、高校受験は高めに出る偏差値(Vもぎ偏差値、Wもぎ偏差)を基準にして「高校受験になると偏差値が高くなるので中学受験はお得」と言っているのです。

これは明らかにセールストークなので保護者の方も「何の模試の偏差値ですか」と聞けるような知識を身に着けておいた方が良いでしょう。

中学受験と高校受験は何と何の偏差値を比べれば良いか

では中学受験の偏差値と高校受験の偏差値は何を比べればよいのでしょうか。

そもそも科目数が違うので比べること自体がナンセンスという意見もあります。しかし中学受験をするにせよ高校受験をするにせよ、学校のレベルは知っておきたいところです。

大学の合格実績などから公平に判断できるのは中学受験の日能研偏差値≒高校受験の駿台偏差値が妥当でしょう。例えば高校募集もしている青稜は中学受験の日能研偏差値も高校受験の駿台偏差値も同じ53です。(2022年6月時点)

また、入試形態からしても比較しづらい都立高校と中高一貫校の私立高校も、日能研偏差値と駿台偏差値が同じであれば大学合格実績はほぼ同等であることが多いです。

まとめ

高校受験になると偏差値が高くなるというのは中学受験塾のセールストークであるということをそれなりの根拠を持って述べてきました。

もちろん例外はたくさんあるでしょう。しかし母集団の質が違う偏差値を持ち出して「高校受験になると偏差値が高くなる」というのは嘘です。

そういったセールストークに騙されないようにするためにも偏差値については基本的な知識を知っておいたほうが良いでしょう。

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